不特定多数の人が利用する商業施設のトイレ管理は、想像を絶する苦労の連続です。家庭用とは比較にならない頻度で詰まりが発生し、そのたびに私たちは迅速な対応を迫られます。施設内で「トイレ使用禁止」の札を出す時間は一分一秒でも短くしなければなりません。そんな私たちの現場で、最も頻繁に行われるのが、薬剤を使って詰まりを溶かす作業です。商業施設のトイレで詰まる原因の多くは、信じられないほど大量のトイレットペーパーの使用です。また、家庭では考えられないようなもの、例えばポケットティッシュの束や、本来流してはいけない厚手のペーパータオルなどが放り込まれることも日常茶飯事です。私たちが作業を行う際、まず判断するのは「これは自力で溶かせるかどうか」という点です。トイレットペーパーが原因であれば、業務用に配合された高濃度の水酸化ナトリウムを含む薬剤を投入します。これは非常に強力で、数分で紙の繊維を分解してドロドロに溶かしてしまいます。しかし、これは劇物にあたるため取り扱いには細心の注意が必要で、防護メガネと手袋は欠かせません。一般のご家庭でここまでのものを使うのは難しいでしょうが、溶かす力の重要性は現場にいると痛感します。また、私たちは定期的に「溶かすメンテナンス」も実施しています。深夜の閉館後、すべての個室の配管に分解剤を流し込み、時間をかけて蓄積した有機汚れを溶かし去るのです。これを怠ると、ある日突然、本管が詰まって施設全体のトイレが使えなくなるという大惨事を招きかねません。インタビューの中でよく聞かれるのは、溶かすためのコツです。現場の経験から言えるのは、やはり温度の管理です。冬場の冷たい水では薬剤の反応が極端に悪くなります。そのため、私たちはポータブルの給湯器を持ち込み、最適な温度の温水で薬剤を流し込むこともあります。温度を数度上げるだけで、溶けるスピードが劇的に変わるのです。しかし、これほど準備をしていても、溶かせない強敵は存在します。それはビニール袋や、最近増えているスマートフォンなどの固形物です。これらはどれほど強力な酸やアルカリを使っても溶けません。そうした場合は、最終手段として配管を解体するか、強力な吸引機を使うしかありません。トイレを溶かして直すという作業は、化学反応をコントロールする繊細な仕事でもあります。利用者の皆さんに快適に使ってもらうため、今日も私たちは目に見えない配管の中で、詰まりと戦い続けています。トイレに流していいのは、水に溶けるものだけ。このシンプルなルールが守られるだけで、私たちの仕事は半分以下になるのですが、それがなかなか難しいのが現実ですね。